はじめに

 ぼくがツリーハウスを作っている森は渥美半島の山の中腹に位置している。木の上からは三河湾が望め、夕日が海に沈む美しいところだ。

 森のひらかれたところは子供を対象に屋外での教育活動が行われる森の学校となっている。

 ツリーハウスに憧れを抱いていたころ、そこの学校の先生から、あのどんぐりの木の上に子供たちの遊び場を作ってみてはと勧められた。

 ぼくはその時、木の上にかかった巨大な鳥かごのイメージがわいてきた。それは丸い形をした人間の巣と呼んでもいい。
木は風に揺れ、動き、しなる。ツリーハウスも揺れに同調する柔軟でしなやかな方が木にとってはやさしいと、ぼくは直感でそう感じた。
 
 それにふさわしい骨組みがをぼくは以前から見つけていた。三角形の骨組みが連続してつながり立体的に空間を包み込むことのできるパターンだ。
実はこれを考えたのはレオナルド・ダヴィンチで、彼がスケッチ帳に描いているわずかなアイデアの断片から導くことができる。
 歴史上では長い間誰もそのアイデアの意味するところや価値を見出せずにいた。だが、近年実物として再現され実験してみるとダヴィンチの考えていたことがだんだんと明らかになってきた。
それは骨組みの幾何学的なパターンが生み出す柔軟でしなやかな強さだ。
ダヴィンチ・グリットとも言われるその格子パターンは基本となる三角形の格子の連続からなり、その頂点に当たるところは四角形以上の多角形におさまる。

 さっそくぼくは木の上で試しにこれでツリーハウスを作りはじめた。
骨組みの材料は森の木を間伐したときに出てくる腕ぐらいの太さの幹や枝。それを片手でも持ち上げることのできる長さに切りそろえ幹や木の又に掛けて結束していく。
骨組みが三角形の格子となるようにつなげ、同時にそれが足場や手すりとなるように安全を保ちながら作業していく。
 この木にかかる巨大な巣のかたちは一定ではない。幹や枝の張り具合、最終的に木がどれくらいの重さに耐えられるか、バランスを保ちながら作っていく。
骨組みの側面は天井をつくるまで揺らぎがちだが、天井で完全につなげると全体的な強度と張りが出てくる。

 その後この骨組みに雨や風除けのカバーを取り付けることになるが、今まで様々な素材を試みてきた。
なるべく軽量な素材が木には負担がかからない。主に合成素材ではプラスチックの波板、天然素材では板材などを試してきた。
しかし最終的には日本の風土に合う茅葺きがもっとも適していることに気付いた。
湿度を抑えて温度を一定に保ち断熱効果に優れている。一年草だから毎年採れ、上手に使えば20年くらいは持つ。張り替えた後は森の木々に栄養を与えてくれる。
それに強い風のあるに日はツリーハウスの中にいると船に乗った感覚だが、茅材のかすれる音が一番耳に優しい。
茅張りによる完成予想絵図

試行錯誤と幾つもの試作を経た現在、ぼくは茅張りの本格的な準備に取り組んでいる。

 ツリーハウスを作り始めてからぼくは支えてくれる木のことを深く考え意識するようになってきた。その木が根を張る森や地球のことも。

「すべてのものが他のすべてにつながっていることに気づきなさい」
 レオナルド・ダヴィンチ
“Realize that everything connects to everything else.”
― Leonardo da Vinci

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